大事なことは失明の予防
人生の途中で急に夫明しますと、一人で歩くことも、食事をすることもできなくなります。むろんのこと、職も失ってしまいます。
新聞を読むことも、家族の顔を見ることもできません。
このような状態に突き落とされるので、病気や事故で失明した人の多くが自殺を考えるといいます。
幸いなことに、実際に自殺される方は少ないのですが、苦しみと悲しみが消えてなくなるわけではありません。
日本は、世界一失明の少ない国です。
しかし、このような悲惨な失明は、もっともっと少なくしなければなりません。
失明には、先天性失明のように予防できない、あるいは予防しにくいものがありますが、一方、外傷による失明など、予防できるものもあります。
まず外傷による失明ですが、日本は安全対策が厳しく定められているので、工場や作業所での事故が非常に少なくなっています。
しかし、これでよいということではなく、さらに安全対策を徹底して、外傷による事故を少なくしなければなりません。
だれにでもできる予防策として、シートベルトがあります。
車が衝突してフロントガラスに首を突っ込み、失明するという事故は案外多いものです。
シートベルトの装用を徹底し、エアバッグがさらに普及すれば、フロントガラスによる失明をもっと少なくすることができます。
また、ちょっとしたことでメガネのレンズが割れ、眼に突き刺さって失明するという事故もときどきあります。
プラスチックレンズを使えば、このような心配はありません。
子どもやスポーツをする人などは、プラスチックレンズにしたほうが安心できます。
プラスチックレンズは傷つきやすいという欠点がありましたが、最近は随分よくなりました。
では、病気による失明の可能性はどうでしょうか。
眼は老化しやすいといわれていますが、水晶体は午をとると硬くなり、濁っていきます。
また、硝子体・網膜にも老化が表れてきます。
しかし、水晶体以外の眼の組織は百歳以上になっても病気にならなければきちんとはたらいてくれます。
眼で病気になりやすいのは、水晶体と網膜で、網膜が病気になると、失明する心配がでてきます。
しかし、病気による失明の第一の原因は、今日では糖尿病性網膜症です。
戦後間もない時期は、食糧事情が悪く、人々はスリムで、糖尿病素質のある人も糖尿病が発病せず、したがって糖尿病からくる失明もありませんでした。
ところが今日、栄養の摂り過ぎが問題になっており、また運動不足も加わって、糖尿病患者が激増し、失明する人も増えています。
例えば、台所などが電化され、家事労働から解放されて、交通機関も発達し、ほとんどからだを使わないですんでしまうなど、
運動不足は糖尿病素質のある人にとって発病の大きな誘因となっています。
アメリカでは、糖尿病患者が増え、社会問題になってから百年になります。
したがって、糖尿病から失明することは、子どもでも知っています。
しかし、わが国では糖尿病が問題になったのは、ここ三十年ぐらいのことです。
したがって糖尿病で失明するということをまだ知らない人が多いのです。
最近の厚生省の調査によると、わが国の糖尿病の患者数は推定で約六百万人で、四十歳以上の成人では「十人に一人の割合でかかっている」といわれています。
糖尿病はそれ自体で死を招くことは少なく、その合併症がとても怖いのです。
三大合併症とは、眼の網膜症、腎症、神経症です。
網膜症による失明、慢性腎不全になると人工透析、神経障害による神経痛、足のしびれなどが起こります。
ほかには脳梗塞、高血圧、皮膚の感染症や足の壊痕による切断など、全身のいろいろなところに障害を起こします。
糖尿病というのは、血液の中のぶどう糖の濃度(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。
それは膵臓から分泌されるインスリンというホルモンのはたらきが低下するために起こります。
血糖値が一定以上に高くなった状態が持続すると、全身の臓器、特に血管の障害を起こしてくるのです。
では、なぜインスリンのはたらきが低下するのかといいますと、一つは遺伝的な因子、もう一つは環境的な因子で、これらが禎雑に組み合わされてインスリンのはたらきが悪くなるといわれています。
糖尿病には、大別して二つの型があります。
若年層に発症するインスリン依存型と、成人になってから発症するインスリン非依存型です。
日本では前者は五パーセント前後で、庄倒的に多いのが後者で、九五パーセントくらいを占めています。
最も多い非依存型の特徴は、いつとはなしに発症し、自覚症状がほとんどなく、少しずつ進行するために放置され、発見が遅れてしまうことです。
発病に五〜三年経て、前に述べた合併症がでて初めて気づく人が多いわけです。
網膜症についていいますと、糖尿病を発症して十数年で患者の約半数に網膜症が発症しているといわれます。
では、このような怖い糖尿病をいかに予防するか、いかに早期発見、早期治療をするかということですが、
前にも述べた糖尿病の発症因子である環境的な因子、すなわち食べ過ぎ、肥満、運動不足、それに身体的なことも含めたストレスなど、生活習慣をいかに改善するがが大切です。
また定期的にきちんと検診を受けることも肝心です(もし発見されれば、医師の指示に従って食事療法、運動療法をしっかり行い、それでも血糖値が高ければ薬物療法ということになります、)。
とにかく糖尿病になったら、これは治る病気ではないということを肝に銘じ、しっかり血糖をコントロールし続けることと、
定期的な検査、特に眼底検査を受け、症状によってはレーザー治療などを積極的に行い、失明という最悪な事態にならないようにしたいものです。
もう一つの問題は、失明した人に対する社会的な配慮が、時代とともに薄くなってきているということです。
徳川時代は、失明した人だけに金貸し業の免許を与えて、その生活を保障しました。
明治・大正・昭和と、マッサージ、ハリ、灸などの職業は、失明した人の職業だとされてきました。
昭和三十年項までは、開業しているハリ、マッサージの専門家の収入が、同じく開業をしている整形外科医よりも多かったといいます。
今日では、晴眼者がこの分野にもどんどん進出してきて、失明した人の職場は極端に狭くなってきています。
そのため、失明した人は職業選択のうえからも、苦しい状況におかれています。
私たちは個人としても、また社会人としても、これら失明された人にもっと深い理解と応援をすることが大事だといえます。
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